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角の欠けたティ―スコーン

絵梨は三八歳で、翔は二八歳だった。彼らの息子は二歳になりたてだったが、まだ言葉をしゃべっていなかった。

ちょうどそのとき息子はベビーカーの上で眠っていた。二人はカフェに入り、カウンターの奥の方に席をみつけた。そばでは一人客の若者や老人が、スマートフォンを見たり、読書や勉強をしたり、あるいは何もせずに前をむいたままでいた。
翔はアイスコーヒーをすすりながら絵梨を見た。彼女は角の欠けたティ―スコーンを食べながらスマートフォンを見ていた。髪からはかつての光が消え、背中は前に曲がっていた。春にしては暖かそうな紺色のセーターを着ていたが、腰のあたりから肌が見えていた。
「すごいわね、これ」スマートフォンの画面には、顔や首もとに沢山のアザができた子供たちの写真があった。「よくこんなことできるわね」
「確かにね」翔は背中をまっすぐに伸ばした。
「あなたに話したっけ」
「何のことだか」
「ほらバスのなかでのことよ」彼女は言葉を探した。「ほら…」でもその先は続かなかった。

「ああ、あの障害をもった人たちのこと?」絵梨は彼らについての話をもう百回以上もしたように、翔には思えた。彼女が毎回作り出す新しい人々で、バスはもういっぱいだった。その中に息子は含まれているのか、彼女自身はいるのかいないのか、翔にはわからなかった。でも今現時点を考えてもまさに、驚くほど色々なことを経験した人々が、バスには実際に乗り込んできているのだ。
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2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017





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