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さくら

さくらが咲いた。
4月に入ってやっと。
川の両岸に咲き乱れた。
橋から見ると、川のうえの虚空にせり出していた。
ついこのあいだまで枝の間から、周りを透き通していたのに。

太い幹から、だんだん細い枝がつながって、最後に花がついていた。
ところで、ある枝は、
太い最初の幹から、突然つま楊枝くらいの細さで、飛び出していた。
そこに花をつけていた。
数えてみると一三束あった。
それを見つけたとき、
風が吹いて、
私の整髪料のついた髪をばらばらに乱した。
しかし、その枝は小刻みに震え、花束もゆれただけだった。
びくともしなかった、といえるくらいだった。

ある朝、駅まで川の脇道を歩いていった。仕事場に向かうために。
突然、初日に、全力で咲き尽くしてしまったためか、
一週間もたたずに、花より葉が目立つようになってしまった。
どの木かわざわざ見つけようとはしないが、
私には、あの枝がまだ幹にしっかりとついている気がした。

私が急いで目的地に走ったり、
文字を書き付けたりしている間も、
平然と風に葉を揺らしている気が。
海岸に波が、
静かに打ち寄せては、
返すように。

列車には、たくさんのサラリーマンが乗っていた。
私は、なるべく中吊りの広告が目に入らないよう、
角を丸く加工された、窓ガラスの前に立った。
窓のむこうのビルや線路脇にも、たくさんの広告があった。
私の住んでいるまちには、文字が常に溢れていた。
差すように朝日が照らし、影を無数に作っていた。

列車はゆっくりと動き出し、
川の上にかかった鉄橋を通過した。
さくらが、川のカーブを描いていた。
なにもかもが生まれでて、死んでいくのだった。
「一連の流れのなかに、あの一三束の花びらもあるのだ」
と思った。

そのとき、なぜか、
皿の端についている小さな虫を、
指で押し潰して殺してしまう、
そんな自分の姿が思い浮かんだ。

「あの枝は私には折れないだろう。」
そんな偽善的な言葉が、私の唇からあやうく漏れでようとした。
コンピューター制御された列車のモーターが、やさしい加速音をなびかせていた。
そんな刹那にも、さくらは川に散っていた。
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2012.12.29(Sat) - 詩と作文 2012





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