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角の欠けたティ―スコーン

絵梨は三八歳で、翔は二八歳だった。彼らの息子は二歳になりたてだったが、まだ言葉をしゃべっていなかった。

ちょうどそのとき息子はベビーカーの上で眠っていた。二人はカフェに入り、カウンターの奥の方に席をみつけた。そばでは一人客の若者や老人が、スマートフォンを見たり、読書や勉強をしたり、あるいは何もせずに前をむいたままでいた。
翔はアイスコーヒーをすすりながら絵梨を見た。彼女は角の欠けたティ―スコーンを食べながらスマートフォンを見ていた。髪からはかつての光が消え、背中は前に曲がっていた。春にしては暖かそうな紺色のセーターを着ていたが、腰のあたりから肌が見えていた。
「すごいわね、これ」スマートフォンの画面には、顔や首もとに沢山のアザができた子供たちの写真があった。「よくこんなことできるわね」
「確かにね」翔は背中をまっすぐに伸ばした。
「あなたに話したっけ」
「何のことだか」
「ほらバスのなかでのことよ」彼女は言葉を探した。「ほら…」でもその先は続かなかった。

「ああ、あの障害をもった人たちのこと?」絵梨は彼らについての話をもう百回以上もしたように、翔には思えた。彼女が毎回作り出す新しい人々で、バスはもういっぱいだった。その中に息子は含まれているのか、彼女自身はいるのかいないのか、翔にはわからなかった。でも今現時点を考えてもまさに、驚くほど色々なことを経験した人々が、バスには実際に乗り込んできているのだ。

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2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017


親しみの恐怖への変貌

ワニのぬいぐるみの尻尾が、何度もかじられたことにより毛だってしまった。
プール底から、青白く光る本物のワニが、こちらを、その毛立ちを、見ている。

ようやくたどり着いた椅子で、食事を待つ力の抜けた表情。
黒いバックははち切れそうだ。もうジッパーが一つ壊れている。

穏やかだった海が…
突然の意表。
飛びついてきた大波。
跳ね返る音。
立ち尽くす。
濡れた着物。
恐怖。
振り返る。

そこでは常におもちゃのような車が移動し続けていた。
指を全力でそちらへ向け、泣いて助けを求める。

夜。目を閉じたまま、温もりの欠如を感じる。
暗いなか、両親のほうへ這っていく本能。

おぞましいものを見たような我々の表情。忌々しすぎる我々の顔。
ガラガラのカフェで四人で入り、一つだけ追加のアイスコーヒーを頼んだように、
汚らしく、忌々しすぎる、我々の生活。


2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017


7月

空の心と書いて、窓と読む。
隣の家の壁しか見えないから少しだけ開くと、
風が入ってくる。網戸は新しくてぴんと張っている。
空は黒線のグリッドで分割されているけれど、
ひとつに成りたがっている。

窓を閉める。静けさが戻ってきた。
心に戻っていく。


2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017


夏川

振り向くと、おばさんがいる。あらあら、ここの水はきれいなのかい。
そうみたいですね。水の流れるなかを息子が走っている。
人工の小川。デング熱の恐怖。
このあたりにも上半身が裸で悪臭を漂わせる男がいる。
息子が枯葉を口に入れる。水に口を近づける。
あれは既にもう食べてしまっているし、飲んでしまっている。
あの喜んだ眼つき。
フフフフ、と笑いながら、おばさんは去っていく。叫ぶ我々を横目に。


2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017



飛ばずに跳ねるカラスはちょっと不気味だ。
ぴょん、ぴょん。羽も目も口も体つきも立派。さらに真っ黒ボディ。
ぴょん、ぴょん、ぴょん。僕は芝生に寝ころんでいる。
大きな木の影に、たくさんのカラスが集まっている。
彼らは地面に二本足で立つ。こちらの出方をうかがうように待つ。
二つの目からは、何を考えているのか全くわからない。
ぴょん、ぴょん。そして待つ。ぴょん。その繰り返し。


2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017





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