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色えらび

僕の長男が2か月くらいだったころの話だ。

ある休日、僕と妻は携帯を乗り換えた。

携帯電話の契約店で、午後の太陽の出ている時間の大半を過ごした。

つまり、一日の大半を、ということだ。

理由はいくつか考えられる。

店員の対応は遅かった。

他社への乗り換えの仕組みは複雑だった。

そして結果的に、なぜ時間がこんなにもかかるんだろうというくらい、長く時間がかかった。



おとといも、この店や、この隣の似たような店で、今日のような話をしていたのだ。

僕たちは時がたつにつれ、だんだんといらいらしはじめた。

それが周りに伝わってしまっているのもわかっていた。

たしかにそう思う。

しかし、こんな風にされたら、誰しもがそうなるのではないだろうか。



「お待たせいたしまして、大変申し訳ございません。」

我慢すれば20代なかばと思うこともできる女性の店員が担当になった。

僕は説明を聞いた。妻は子供をあやしていいた。

書類が渡され、僕はサインをした。

書き終わると、一枚づつすぐに、それはさらわれていった。

彼女はひったくるようにそれを持っていった。

すると彼女は再び、パソコンをにらみつけた。

しばらくすると新しい紙が、つぎつぎとプリンターからあらわれた。

席についてから1時間ほどたったとき、僕は永遠という概念について考えざるを得なかった。


とあるとき、妻がソフトバンクと電話をしていた。

乗り換えのための解約の手続きがうまくいかないのだった。

前の契約を解除すると、違約金が発生すると言われたらしい。

「乗り換えなんてしないほうが、よかったのかしら」

隣接する別のB社の契約店に文句をいいに、妻が行ってしまった。



傘をさした人々が見えた。雨がふってきたのだった。

僕はあらゆる意味でひとりぼっちになった。

「それではsimカードをとってまいります。」

女性店員がそういった。それから、立ち上がった。

振り向いて後ろの棚から箱を取り出した。

そして、また僕の前に座り、パソコンのほうを向いたまま、

「はい、こちらがK様のsimカードになります。」

そういった。

そんなことをいちいち、口にださなくてもいいのだ。



彼女は眼鏡をかけていた。

それも中学生がかけるような薄いフレームのやつだった。

色はピンク色だった。

ブラウスもピンク色だった。胸元にボールペンが入っていた。

それを時折いじくった。下目づかいで。

ボールペンは盛り上がった胸とブラウスの緊張のなかで、窮屈に直立していた。

僕は椅子を回転させた。

外をみた。店内の壁をみた。

張り紙があった。

『いまどき4S??いやいや、5Sでしょ!!』

その文字配列の無配慮ないさましさに、僕の口から1週間分のため息が出た。



きっと僕の心が狭いせいなのだ。

ある部分では、それは間違いないことだ。

でも誤解を恐れずに言ってしまうと、要するに、彼女はお世辞にも綺麗ではなかった。

それも注釈をつける必要もないくらい。



「それで、キャッシュバックについてなんですが、お二人さま分、あわせて合計6万円となりますので、後でご用意いたしますね」

彼女がいった。

パソコンと私のちょうど中間あたりをみながら。

その間に透明の糸を出す透明のクモが潜んでいて、それが興味を静かにひいているように。

「そうですか。ありがとうございます。」

僕はいった。

なるべく控えめに、自然に聞こえるように。



鼓動がわずかに高まった。それを僕は制御した。

やはりキャッシュバックがあったのだった。

僕はキャッシュバックの張り紙が、店内に小さくはってあるのに、待っている間に気付いていたのだ。

ただ、その対象に自分たちがなっているかはわからなかっていなかった。

それは彼女によってあきらかにされたのだった。



いわれなければ気付かなかったかもしれないのに。

「それは3万円を2人分ということ?」

「そうです。」

「どういうかたちでもらえるのかな。月々の使用料金から割引とか、商品券とか・・・」

「いえいえいえ・・・後ほど現金でおわたしいたします。」

「なるほど、分かりました。」

「でも、契約が終わってからでないとお渡し出来ないので・・・もう少々お待ちください。・・・ふふ、すぐにお渡し出来ればいいんですけど。」



彼女は照れ臭そうに笑った。

今度はこちらをまっすぐ、上目遣いでみながら。

まぁ、現金というのは悪くない話だった。ぜんぜん悪くなかった。



「ねぇ渡辺さん、色なんだけど、僕、やっぱり緑も見てみたいんだけど、いいかな?」

その携帯電話のシリーズは5色から選ぶことができた。

僕は迷っていたのだった。

「本当は駄目なんですけど・・・今回はご迷惑をおかけしているので・・・特別にいいですよ。」

彼女はそう言って後ろの別の棚をあけて、ケースに入った緑色の本体をだしてくれる。

「ああ、緑がいいですね。緑でお願いします。」

「はい、かしこまりました」

すっかり彼女は上機嫌になっていた。

声色というものは恐ろしいほど正直なものなのだった。



「ではまず、一人分の三万円になります。こちら受領証となりますので、サインをお願いします。」

僕はサインをした。

いわれなければ僕らは気付かなかったかもしれないのに。

妻が戻ってきた。

どうやら手続きは終了したようだった。

僕は妻にキャッシュバックのことを伝えた。

「どういうこと?」

ピンク色の店員は同じ説明を繰り返した。

「その分、携帯電話そのものを安くすればいいのに。なんで・・あー意味わかんない」

妻が言った。たしかに僕も微妙な気もちだった。

でも、妻の顔はほころんでいた。



「それで、僕の携帯の色なんだけど、緑色に変えたんだ。」

「えーゴールドにすればいいのに。6万もらうんだし。」

妻はゴールドなのだった。

それは1万円くらい、緑より高く、性能もいいとのことだった。

指紋認証機能がついているし、まぁほかにもいろいろとついているようだった。

「いいんだ、あの緑のチープな感じがいいんだ」

それか、黄色のもやっぱりいいな、そう僕は心の中で思った。

口には出さないで。

でもいったん決めたんだしね、いいんだ、緑で。



彼女は手を動かさずに、パソコンをじっとみつめていた。

突然こちらを振り向いて、言ってきそうなきがした。

「やっぱりゴールドにされますか?」

とてもそういう気がした。彼女はよめなかった。



でも、いったん色を決めたら変えられないといってきたのは彼女なのだ。

そんなことをいうはずはない。



最終的に手続きが終わったとき、もうすぐ六時になろうとしていた。

12月の太陽はもう落ちていた。

残りの三万円を受領して、その日最後のサインをした。

「この6万円は君の財布にいれておくね。」

「うん、それで家賃を払っておくわ。それか、おかあさんから借りたお金をかえしてもいいし。」

赤い手提げ袋を二つもって、僕たちは店をでた。

「やっと終わったね、君は家にかえる?」



まだ雨が降っていた。肌寒かった。

通り向かいのハンバーガー店に入って、ビールとポテトをつまむことにした。

妻はお腹が空いたといった。

チーズバーガーを頼むが、オーダーが通っておらず、もう一度たのむことになった。

10分くらい経過したあと、ようやくそれは運ばれてくる。

「あーあ。今日はなんかついてないよねー」

そういうことだった。ついていないなかった。

雨も降っていたし。




しばらくして、自分の携帯がネットにつながっていないことに気づく。

「ネットつながってる?」僕はきく。

「うん。え、なんで?」

わからなかった。それがわかれば苦労しないのだった。

「表示がでてこないんだよ。なんでだろう。

これ、契約してないことになってるのかな。

緑色はつながらないのかな。通信方法が違うとか。」

「そんなわけない。これと違うのは、CPUと指紋認証って言ってたもん。」

そうだよね。そのとおりだった。

「あーめんどくさい。もういちどいってきたら?私はここにいるから。」

妻が言った。

僕は妻の優しくて低い声が好きだ。それはどんな状況でも変わることはない。

彼女の手の中のゴールドの本体が店内の光に反射する。

かかえられた子供は泣きもしない。





僕は折り畳み傘を開いた。

また孤独が闇の中からあらわれて僕をぱくりと食べた。

昼と同じように、発券機から順番待ちのカードをとらなければならないだろう。

また彼女が対応するに違いなかった。

そんなにスタッフの人数は多くないのだ。



六万円。

彼女が言わなければ手に入らなかった六万円。

それは今、はっきりと、妻の財布の中にあるのだった。



最初の彼女とのやりとりを思い出していた。

「色ですが、何になさいますか?」

「サンプルとかみせてもらえますか?」

「すみません。青と赤ですと、向こうの方においてあります。」

「それ以外は?」

「申し訳ございません。5色のなかのほかのいろですと、当店にはご用意がございません。」

「そうですか。なるほど。わかりました。」



色はいったん決めたら変えられない。

「だから、ゴールドにすればよかったのに。」

たしかにそれなら、迷わずにすむのだった。



彼女がやってきた。



「先ほどはありがとうございました…あの、ネットに、これ、つながってないみたいなんだけど」

僕は自分の携帯を差し出した。

「はぁ、それでは何故ゴールドになされなかったのですか?」

彼女は強い口調でそう言った。

眼鏡のフレームが、ピンク色だった。

すごく安っぽい色なのだ。彼女には申し訳ないんだけれど。



そんなことは聞いていないと、僕は言った。

彼女はするとこう言った。

「お言葉ですが、そんなことも言われなければ、わからないのですか?我々はいったいどこまで説明すればいいのでしょうか。限られたなかで、私といたしましては丁寧にご対応させて頂きました。こちらの申し込み用紙にもインターネット接続のためには別途『めちゃ割プラン』への加入が不可欠と書かせていただいております。」

たしかにそこには書いてあった。

パンくずくらいの大きさで。

他の文章のあいだに、改行もされず入り込んでいた。

こんなのわかるわけがない。

「それで、このプランへの加入はいくらかかるの?」

彼女はクリアファイルを広げた。

「いま、他社からの乗り換えのお客様限定で、こちらの『乗り換えめちゃ割プラン』となりまして、無料とさせていただいております。」

じゃあ最初からいれておいてくれればいいじゃないですか。

「あの、お言葉ですが、先ほどの繰り返しになりますが、どこまで説明申し上げればよろしいのでしょうか。確かにお客様に対して過不足なく御説明するよう努めておりますが、お時間に制限がある場合もございます。こちらの機種の場合、無料プランが幾つか付属しておりまして、こちらの確認をさせていただいた際、無料プランについては必要ないと承ったと記憶しておりますが。」

それに、だって、無料なんですよ。全然、悪くないじゃないですか。それに、ゴールドにしていれば、何の問題もなかったんですよ。キャッシュバックもきちんと案内しましたよね。大体、ほとんどの人がゴールドなんだから。全然、悪くないですよ。



彼女の胸元に、圧迫されてペンが立っていた。

力強く、アンテナのように何かを受信するように。

胸元は豊満だった。

一昔前のデスクトップ・パソコンの本体のように、容量があった。

質量の過剰。そこにはたくさんのプログラムが仕組まれているのだ。



「だって六万円くれたじゃない。それだって渡辺さんが言ってくれなかったらわからなかったのよ。さぁ早く席について。そして早くサインをして帰ってきて。」

低い声が聞こえた。



そうだね。君のいうとおりだ。

どうせ彼女たちに、従うしかないのだ。

永遠に。

それなら、早く終わらせた方がいい。





じゃあ契約します。時間が勿体無いから早くして下さい。

「きちんと確認をさせていただかなかった点につきましてはお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした。あらためてきちんと御説明させていただきますね。」

彼女は深々とお辞儀をした。

表で一台、雨の路面のうえを、車が通り過ぎた。

「それでは、御契約書類を作成いたしますので、こちらにおかけください。それでは、電話番号と契約者様のご氏名をこちらにお書きください。」

そう言い残し、彼女はなにごともなかったかのように、何処かへ行ってしまった。

僕は電話をかけた。

そして妻に、遅くなりそうだから、先に帰るように伝えた。

受話器を通じて、長男の泣き叫ぶ声が聞こえた。

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2014.01.30(Thu) - 詩と作文 2014


別れ

海に

雨が降りそうなとき

だいたいそういうときには

きちんと雨が降ります



休み時間に

岩のうえに座って

ラジオをつけて

よくそうやって海をみていますが

たしかにそうです



科学者がいいます

地球は水の惑星だと

雨が川となり雲となるその循環を



でも、

陽の光が遮ったとき

風が強く吹いたとき

そういうときには

少しづつ少しづつ

裂け目ができて



回復することも、結構あります

そんなときは、私も海も

(そしてあなたもそうであるといいなと私は強くおもうのですが)

あたたかさで包まれます



挫折しそうなとき

突然やってきたやさしさが

この自分勝手な海に

もっと大きな天とか地に

はたまた自分自身に

大きく大きく存在して



背中を向けて

いつものラジオを消して

身勝手に

僕はここから去っていくのですが



やっぱり

今日はもういいや、というふうに

循環をとめてみること

無視してしまうこと、それから

しばらくして持ち直すこと



明日があるさと

そうやって長く長く続けていこうとすること



これまで続けてきた

そういうことが

胸にきちんと刺さって

いつまでも取れないのです






2014.01.30(Thu) - 詩と作文 2014





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