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火山灰による建物被害リスク

「近くの火山が噴火したとき、風に流されて飛んできた灰が自宅の屋根に積もって、その重さで家がつぶれてしまうかもしれない。だから万一のことを考えて、屋根をそれに耐えられるように丈夫に作った」このような用心深い人に、今まで一度も出会ったことがない。もしかしたら、噴火が日常的とはいえない場所にしか、住んだことがないからかもしれない。
火山灰は吸い込むと人体に悪影響を与えるので、灰が飛んできたときには外に出ず、屋内で過ごしていたほうがいいといわれている。その逃げこむ建物が壊れてしまっては、とんだ悪夢である。
しかし、よほど火山の近くで生活しないかぎり、そもそも灰が飛んでくることなんて、まずないだろう。こう考えている人も多いと思われる。ましてや、いかにも軽々とした灰で建物が壊れてしまうなんて、絶対にありえない。

このようなリスクを日本で具体的に検討したものとして、内閣府の富士山ハザードマップ検討委員会による被害想定がある。
富士山は約300年前に大噴火を起こしたことがわかっている。同じような噴火が現時点で発生したらどうなるか、という再現シナリオによれば、噴火2週間後までに累計して、横浜に10cm、東京南部に8cm程度の降灰が見込まれている。もちろん火口により近ければ100cm以上積もる場所もあるし、遠くは東京都心を超えて房総半島まで届くとみられている。
そして、家屋被害について「雨がある場合、降灰厚30cm〜45cmで全壊率30%」としている。これは「10戸の木造家屋の屋根のそれぞれに30cmの湿った灰が積もったら、そのうち3戸は屋根が崩壊して家屋全体が被害を受ける」ということを意味する。ちなみに雨がある場合を想定しているのは、灰は雨を含むと重さが増すため屋根が壊れやすくなり、被害を保守的に(大きめに)みることができるからである。
こうして1日1回必ず除灰作業が行われるという仮定をおいた結果、江戸時代の富士山噴火がいま現代で再び起こった場合、木造家屋の全壊数は280~700戸と推定されている。

この数字をあまり多くないとみる人もいるだろう。ちなみに南海トラフ巨大地震の揺れによる建物全壊数は、最大約130万棟に達すると内閣府は推定しており、それと比べれば遥かに少ない。しかし以下のように考えると、火山灰による建物被害の様相は、大きく異なるものになる可能性が高い。
・ 次の噴火の規模は、昔の噴火と同等とは限らない。
・ 風向きが変われば、灰の積もる場所も量も様々なパターンをとりうる。
・ 豪雪災害時の経験として、降り積もった雪による屋根崩壊が体育館などの大規模施設に多いことからすると、被害が出るのは家屋だけではないだろう。
・ 崩壊に至る降灰量についても、屋根の耐久性が弱い場合は10cm程度からとする研究もある。
・ 少ない降灰量でも空調設備や非構造部材の被害が発生し、全壊に至らない被害は広範囲に起こりうる。
・ 除灰作業は十分に実施できないかもしれない。

内閣府の被害想定は、建物被害リスクを把握しようとするときに参考となる、数少ない資料の一つである。しかし、火山災害の不確実性や、世の中に広がる建物の多様な脆弱性を評価できるよう、さらに予測手法を発展させる余地がある。
例えば、噴火シナリオを複数設定したうえで、想定される建物損失額やその対策コストを、全壊家屋以外を含めて算出することが考えられる。噴火リスク計量の精緻化にむけて、その一翼を担えるよう今後も精進していきたい。

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2017.06.18(Sun) - 未分類


角の欠けたティ―スコーン

絵梨は三八歳で、翔は二八歳だった。彼らの息子は二歳になりたてだったが、まだ言葉をしゃべっていなかった。

ちょうどそのとき息子はベビーカーの上で眠っていた。二人はカフェに入り、カウンターの奥の方に席をみつけた。そばでは一人客の若者や老人が、スマートフォンを見たり、読書や勉強をしたり、あるいは何もせずに前をむいたままでいた。
翔はアイスコーヒーをすすりながら絵梨を見た。彼女は角の欠けたティ―スコーンを食べながらスマートフォンを見ていた。髪からはかつての光が消え、背中は前に曲がっていた。春にしては暖かそうな紺色のセーターを着ていたが、腰のあたりから肌が見えていた。
「すごいわね、これ」スマートフォンの画面には、顔や首もとに沢山のアザができた子供たちの写真があった。「よくこんなことできるわね」
「確かにね」翔は背中をまっすぐに伸ばした。
「あなたに話したっけ」
「何のことだか」
「ほらバスのなかでのことよ」彼女は言葉を探した。「ほら…」でもその先は続かなかった。

「ああ、あの障害をもった人たちのこと?」絵梨は彼らについての話をもう百回以上もしたように、翔には思えた。彼女が毎回作り出す新しい人々で、バスはもういっぱいだった。その中に息子は含まれているのか、彼女自身はいるのかいないのか、翔にはわからなかった。でも今現時点を考えてもまさに、驚くほど色々なことを経験した人々が、バスには実際に乗り込んできているのだ。


2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017


親しみの恐怖への変貌

ワニのぬいぐるみの尻尾が、何度もかじられたことにより毛だってしまった。
プール底から、青白く光る本物のワニが、こちらを、その毛立ちを、見ている。

ようやくたどり着いた椅子で、食事を待つ力の抜けた表情。
黒いバックははち切れそうだ。もうジッパーが一つ壊れている。

穏やかだった海が…
突然の意表。
飛びついてきた大波。
跳ね返る音。
立ち尽くす。
濡れた着物。
恐怖。
振り返る。

そこでは常におもちゃのような車が移動し続けていた。
指を全力でそちらへ向け、泣いて助けを求める。

夜。目を閉じたまま、温もりの欠如を感じる。
暗いなか、両親のほうへ這っていく本能。

おぞましいものを見たような我々の表情。忌々しすぎる我々の顔。
ガラガラのカフェで四人で入り、一つだけ追加のアイスコーヒーを頼んだように、
汚らしく、忌々しすぎる、我々の生活。


2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017


7月

空の心と書いて、窓と読む。
隣の家の壁しか見えないから少しだけ開くと、
風が入ってくる。網戸は新しくてぴんと張っている。
空は黒線のグリッドで分割されているけれど、
ひとつに成りたがっている。

窓を閉める。静けさが戻ってきた。
心に戻っていく。


2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017


夏川

振り向くと、おばさんがいる。あらあら、ここの水はきれいなのかい。
そうみたいですね。水の流れるなかを息子が走っている。
人工の小川。デング熱の恐怖。
このあたりにも上半身が裸で悪臭を漂わせる男がいる。
息子が枯葉を口に入れる。水に口を近づける。
あれは既にもう食べてしまっているし、飲んでしまっている。
あの喜んだ眼つき。
フフフフ、と笑いながら、おばさんは去っていく。叫ぶ我々を横目に。


2017.02.15(Wed) - 詩と作文 2017





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